拗らせDKの偏った溺愛
<竜也>
往生際悪く、もう一度逃げようとしたコイツを見て、ふと、腹いせにとことんいじめてやろうと思った。
一度思うと、それはすごく面白そうなことに思えてきた。
久しぶりに感じる、ワクワクとした高揚感に珍しく俺の気分が上がっていくのがわかった。
だから、
「いいこと思いついたんだけど?」
と、ご機嫌な気分で持ちかけてみた。
もちろん拒否させるつもりはないから、言葉だけ提案形。
俺の中ではとっくに決定事項だ。
「いいこと?」
よしよし、すんなり乗ってきたな。
「そう、いいこと。まず、お前はこれから先ずっと、俺の言うことに”はい”ってだけ言う。わかった?」
子どもに説明するみたいに、できるだけわかりやすく説明する。
「は、はい!」
さっきまでと違って俺の怒りが消えたことに安心したらしいコイツは、簡単に首を縦に振った。
ばーか。
心の中で舌を出しながら、説明を続けた。
「じゃあ、契約成立ってことで…」
ニコッと笑うとコイツが肩の力を抜いたのがわかったから…
長らく至近距離にあった顔をさらに近づけてキスしてやった。
想像以上に柔らかかった唇に少し驚きながら軽くキスし終えて美咲の顔を覗き込むと、目を見開いたまま呆然と俺の顔を見上げている。
ハハッ、これは自分に何が起きたかわかってなさそうだな。
思わず笑いそうになるのを必死に堪えながら、更に言う。
「俺のことはリュウでも竜也でもいいから名前で呼べよ?」
……なかなか返事をしないところを見ると、未だに放心状態らしい。
「おい、聞いてんのか?あ、そういやお前、名前は?」
「……」
おいおい、まだ放心中かよ…。