こんな男に誰がした!


「浩輝、本当にごめんなさい。もう、あなたに会いたくて会いたくて、我慢できなかった。カンナさんから、浩輝の立場について聞かされていたのに。」


「俺のほうこそ、力になれなくて、申し訳なく思っているよ。」


「浩輝、私ね、癌が再発してね、子宮を全部取らなくてはならないの。そう言われたら、あなたのことしか考えられなくて、ここまで来ていたの。」


「辛いね。でも、それで命が助かるなら、戦わなくて、どうするの? さやかさんは、いつも前を見据えて生きてきたよね。俺は、そんなさやかさんを見て、凄い人だと思っていたよ。」


「私は、そんなに強い女じゃないよ。いつだって誰かに支えてもらいたい。浩輝、私を抱き締めて、あの頃のように。」

さやかさんは、両手で、顔を覆い、泣き出した。

思わず俺は、さやかさんの側に行って抱き締めた。


「さやかさん、今だけ。でもこれ以上は支えることは、できないんだ。すまない。」


「うん、わかってる。今だけでいい。それだけで頑張れるから。」


俺は、時間が来るまでさやかさんを抱き締めていた。ただ抱き締めることしかできなかった。


やがて、ドアをノックする音がした。
< 50 / 63 >

この作品をシェア

pagetop