こんな男に誰がした!
「浩輝、本当にごめんなさい。もう、あなたに会いたくて会いたくて、我慢できなかった。カンナさんから、浩輝の立場について聞かされていたのに。」
「俺のほうこそ、力になれなくて、申し訳なく思っているよ。」
「浩輝、私ね、癌が再発してね、子宮を全部取らなくてはならないの。そう言われたら、あなたのことしか考えられなくて、ここまで来ていたの。」
「辛いね。でも、それで命が助かるなら、戦わなくて、どうするの? さやかさんは、いつも前を見据えて生きてきたよね。俺は、そんなさやかさんを見て、凄い人だと思っていたよ。」
「私は、そんなに強い女じゃないよ。いつだって誰かに支えてもらいたい。浩輝、私を抱き締めて、あの頃のように。」
さやかさんは、両手で、顔を覆い、泣き出した。
思わず俺は、さやかさんの側に行って抱き締めた。
「さやかさん、今だけ。でもこれ以上は支えることは、できないんだ。すまない。」
「うん、わかってる。今だけでいい。それだけで頑張れるから。」
俺は、時間が来るまでさやかさんを抱き締めていた。ただ抱き締めることしかできなかった。
やがて、ドアをノックする音がした。