こんな男に誰がした!
村越真由は、俺の腕を思い切り引っ張ると、七階で降りた。
「村越さん、俺は、君の話を聞くつもりはないよ。こんなことをして、どうかしてるよ。」
俺は、彼女の行動がとても不快で、唇を袖で拭った。
「俺は、失礼するよ。」
「いいのかしら? キスしたこと、婚約者さんに話すわよ。」
「意味のないキスだ。それはキスしたことにはならないよ。」
「浩輝さん、わかってないなあ。女心では、キスの意味なんてどうでもいいのよ。キスをしたかどうかが、問題なのよ。自分以外の女性とキスした事実で、不潔に感じたり、もうキスをしたくなくなったりするものなの。わかる?」
俺は、村越の目を見て、唖然としてしまった。
なんて自分勝手な言い分なんだろう。自分を中心に世界が回ってると、思っているかのようだ。
そんな罠に易々と引っ掛かった自分が、とても情けなく思えて、自分の自信のなさに拍車がかかる。
俺が、ちゃんと本木にでも確認しておけば、今夜、飲み会がないことはすぐにわかったはずだ。
俺は、まだまだ甘いのだ。