聖夜の光



別にキスをする訳でもないし、と思い直して頷いたら、彼はスプーンで私のパフェを一口分、さっと掬って口にする。



「うん、美味い」

「それなら良かった」

「じゃあ俺のもどうぞ」

「は?」

「交換」

「いえ、私は」

「何だよ、食わせて欲しいのか。しょうがねぇなあ」



彼は悪戯気に笑って、自分のスプーンで目の前のパフェを一口掬うと、ほら、と私の口許にそれを差し出してくれた。

彼が頼んだのは、チョコプリンパフェだ。

姉の彼氏と、間接キスをする事になるけれど。
小さな罪悪感が、胸に湧かない訳ではないけれど。

スプーンの上でふるふると揺れる美味しそうな一口を、その時の私は断る事なんて出来なかった。

控えめに唇を開いて、その一口を頂く。
口の中に広がる快い甘さはきっと、プリンの味だけではなかったと思う。

奇妙な擽ったさを覚えて、思わず頬が綻ぶ。



「美味しい…!」

「だろ?」



まるで私を甘やかすように、彼が親しげに微笑み掛けてくれたその瞬間。
私の胸の奥に何か温かいものがほどけて。


…そして多分この瞬間に、私は目の前の彼に恋をしたのだ。


決して好きになってはいけない人だと知りながら。



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