聖夜の光
「会えて良かった」
彼は一言そう云って、私を抱く腕に力を籠める。
違うと言わなくてはいけないのに、私は相変わらず言葉が出てこない。
「今夜、君に、言わなくちゃいけない事が有って」
彼に抱きすくめられた私は、ぴくりと肩を跳ねさせた。
聖夜にわざわざこんなホテルの豪華な部屋を取って、愛する彼女に言わなくちゃいけない事、なんて聞いたら、特別な告白を想像する。
たとえば結婚してくださいとか。
章吾さんは姉にプロポーズするつもりなんだろうか。
だから仕事を切り上げて、ここに駆け付けたんだろうか。
胸の奥に鈍い痛みが疼いて、唇を噛んだけれど。
大好きな姉が幸せになるのなら、祝福してあげなくちゃ。
私は彼の腕の中で身じろぎ、やっと顔を上げて、彼を見上げた。
「あのね、章吾さん、御免なさい。私は陽奈子じゃなくて」
「知ってる」
彼が私の言葉にかぶせるように言ったので、私は再び呆気に取られた。
「ついでに言うと、俺も章吾じゃない」
はい?
何か聞き違えただろうかと固まる私の頬を、彼が大きな掌で優しく包んでくれる。