もう一度出会えたら
突然聞こえた遠慮のない咳払いにハッと我に帰り彼に抱きついていた体を離すと


彼の斜め後ろに見えたさっきのおばちゃんのニヤニヤ顔と目が合った。


『あらやっぱ菜々ちゃんやないの、あんた。えらい男前な彼氏捕まえて』


うっ…出来ればもう放っておいてほしいけど…この人はそんな簡単に解放し


てくれそうにない…しかも運の悪いことにこのおばちゃんは近所でも有名な


スピーカーおばちゃんだった。よりによってこの人に見られるなんて……。


「あの…今見た事は、うちの親にはくれぐれも内緒でお願いします……」


頼んだところで聞いてくれるか分からないけど取り敢えず口止めだけはしておか


なきゃ。彼も一緒に頼んでくれたので多少の効果はあるかもしれない…。


『 男前に頼まれたら、…しゃーないな』


多少の不安は残るものの…後はもうなるようにしかならない。


それにいつまでもここに居るわけにもいかなくて、取り敢えず彼の手を引き家と


は逆の方向に歩き始めた。


結局、家から徒歩5分の所にあるファミレスに入った。


正面に座ったばかりの彼が、いきなり思い出し笑いの様にククッと笑い出した。


「な、なに…?どうしたの」
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