ブルーカクテルで乾杯を
イブで人が溢れる街を縫うように走って、待ち合わせ場所に辿り着く。

「ごめん!」
「まぁ、想定範囲内。……なんかいいことでもあった?」
「えっ。なんで?」

顔を合わせてすぐにそんなことを言い当てられて、さすがの私も驚いた。
目を丸くして見上げると、彼は「そんな感じがしたから」と白い息と共に答えた。

「実は、ね。あとでゆっくり話す。ところで、どこ行くの?今日はどこも混んでそうだよね」

辺りを見回すと見事にカップルばかり。きっと、この辺はオシャレなお店が多いせいだ。

「まさか、またラーメン屋とか言わないよね?」

嫌味交じりに冗談で言った私は、てっきり『言わねぇよ』くらいの軽い返しがくるものだとばかり思っていたのだけれど。
それがどうしたものか。どこか緊張したような面持ちで、言葉を選んでいる様子だった。

「実はもう行き先は決めてるんだ」

具体的な答えを言わず、「近くだから」と濁したままいつもの笑顔を見せて、私の手を取る。小首を傾げた私は、『まぁいいか』くらいにしか思わずに、彼の隣を歩いて行った。

「ここ」
「えっ」

彼が足を止めたのに合わせて立ち止まると、そこはブルーの光がロビーから覗く、あのホテルだった。
二メートル以上ありそうなツリーを外から眺めた後、目を瞬かせて隣を見上げた。すると、照れくさそうな顔を隠すように横を向く。

「気にしてて……くれたの?」

前にここを通りかかった時の私の言葉を。
あの時は軽く受け流されて、でも、それもまた深く勘がることも期待することもせずにいたけれど。

「ほら。社会人になって何年か経つし、こういう時くらい……とかって、いや、なにこれ。すげー恥ずかしいんだけど」

寒さのせいじゃなく、顔を赤らめて手で覆う姿に、私は彼を好きになった時のような感情が溢れ出た。
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