君は私の人生の、輝く太陽。
勿忘草(ワスレナグサ)
***
涼香として学校に通い始めてから3ヶ月。
事故にあってから4ヶ月。
私は、遥香だとバレることなく生活してきた。
今日はこの辺りでは珍しく雪が少し降っている。
スマホの日付は2月10日と表示されていた。
「・・・はぁ」
ほとんど無意識に、毎日でるため息。
朝起きた時も。
家を出た直後も。
学校についた時も。
帰りに莉心ちゃんと別れた時も。
夜寝る前も。
繰り返される毎日に、もう疲れていた。
なにもかもが嫌になって。
この4ヶ月で"遥香として生きたい"と、何度思っただろう。
何度、"あの時一緒に死ねばよかった"と思っただろう。
"遥香として生きたい"と思っても、誰にも言えない私。
そして、"死にたい"と思っているのに死ねない私。
どれだけ弱いんだろう。
遥香だと言う勇気も、死ぬ勇気もない。
それどころか、"このまま一生涼香として生きる"という事への覚悟もない。
自分がどうしたいのかも分からないし、どうすればいいのかも分からない。
私は結局なんなんだろう?
名前が遥香だから、言う事や行う事が遥香らしい?
じゃあ、今は名前が涼香だから、言う事と行う事が涼香らしい?
"らしい"ってなんだろう。
正直、このまま一生過ごすことは、あまり良くないと思っている。
だって私は遥香だから。
私が遥香として生きるためには、まず、お母さんとお父さんに"私は遥香だ"と言わなければならない。
でも、その言葉はとても重いもの。
軽々しく言えるようなものじゃない。
「はぁ・・・」
私は部屋の窓を開けた。
冷たい風が吹き込んできて、部屋の温度も、私の体温も奪われる。
ちらつく雪に手を伸ばし、掴む。
当然、雪は掴んだ瞬間に溶けて水になって。
手のひらに雪は残らない。
私には手のひらに乗った1粒の雪を見ることすらできない。
分厚い雲に覆われた空からは、月も星も見ることが出来ない。
雪が降っているから当然のことなんだけれど。
「はぁ・・・」
今日で何度目か分からないため息をこぼして、私は窓を閉めた。
ふと時計に視線をずらすと、午後11時30分を指していた。
「寝よう・・・」
私は布団の中に入って、目を閉じる。
明日もバレませんように。
誰かが気づいてくれますように。
そんな矛盾した願いを小さく呟いて、私は眠りについた。