君は私の人生の、輝く太陽。
クロッカス
***
天気は快晴。
雲ひとつない青空。
でも私の心は今日も雨が振り続ける。
最初はポツポツと小降りだった心の雨も、1週間前、みんなに"私"が忘れられたと知ってから土砂降りだ。
「・・・おばあちゃん、おはよう。」
「おはよう遥香ちゃん。ご飯今出来るからね。」
おばあちゃんに"遥香ちゃん"と呼んでもらえたことに、ひどく安心した。
まだ、誰も覚えていないわけじゃない。
ここに覚えていてくれる人がいる。
それがとてつもなく嬉しくて。
そして、今日は────。
「遥香ちゃん。お誕生日おめでとう」
ふわり、優しく笑ったおばあちゃん。
私も自然と笑顔になって。
「・・・っありがとう!」
おばあちゃんが私の誕生日を覚えていたことが嬉しい。
私はおばあちゃんに"私"を覚えてもらえていて、尚且つ、誕生日も覚えてもらえている。
今の私にこれよりも嬉しいことなんてない。
でも、そんな私の喜びはおばあちゃんの言葉で一瞬にしてなくなった。
「・・・・・・あのね遥香ちゃん。今日は誕生日だろう?だから、恵美が家でお祝いをしたいって。」
「え・・・」
あの家で・・・?
しかも、お母さんとお父さんは"私"に気付いていない。
そんなの、行きたくない。
別にお祝いされなくてもいい。
だから、これ以上"私"を否定されたくない。
これ以上"私"をこの世界から消したくない。
今お母さんとお父さんの元に行ったら2人を傷つけてしまいそうで怖い。
でも今日は涼香の誕生日でもあって。
私が家に行けば、涼香はお祝いしてもらえる。
それが例え偽りの私だとしても。
それなら私が我慢しよう。
私が涼香として家に行けばいい。
それにいつまでもおばあちゃんに甘えるわけにはいかない。
だからこれを機に家に帰ろうか。
どうせお母さん達だって私が遥香だと気付かない。
学校と同じように振る舞えばいいだけ。
たったそれだけのこと。
「・・・分かった。じゃあ学校の帰りにそのまま家に行くね。」
顔に笑みを貼り付ける。
「遥香ちゃん、無理していかなくても────」
「大丈夫だよ、おばあちゃん。無理してないから。」
『無理していかなくてもいいんだよ。』そう言いかけたおばあちゃんの言葉を、私は遮った。
おばあちゃんにそんなこと言われたら、きっとまた甘えてしまうから。
「遥香ちゃん・・・」
おばあちゃんは心配そうに眉を下げた。
「あとさ、私家に戻るよ。・・・いつまでもここにいるわけには行かないし。もう大丈夫だから!」
私はまた笑顔を貼り付ける。
おばあちゃんにこの作り笑いはバレないだろう。
涼香として生き始めてから作り笑いが上手くなった。
だから多分バレない。
「・・・そうかい?何かあったら来ていいからね。おばあちゃんはいつでも遥香ちゃんの味方だから。」
おばあちゃんの言葉で胸がいっぱいになって。
鼻の奥がツーンとした。
「行ってきまーす!」
元気よく挨拶をして家を出た。
おばあちゃんの家に帰るのは、今日で最後かもしれない。
────いや、多分帰ってこないだろう。
だってまた家でも涼香として生きるから。
今日家に行けばきっとお母さん達は帰ってこいって言う。
だから、私はそれに返事をすればいいだけ。
例え"私"が忘れられても。
元々"私"は死んでいるのだから当然のこと。
今までが甘えすぎていたんだ。
「涼香ー!」
今日もまた、なにも知らない莉心ちゃんが、私を涼香だと思って話しかけてくる。
私もそんな莉心ちゃんに涼香として答えるだけ。
家でもそうすればいい。
たったそれだけの事なんだ。