君は私の人生の、輝く太陽。
「・・・リビングに行きましょう」
おばさんがニコッと微笑んだ。
でもその笑みは、いつもとは少し違った。
まだ状況を理解出来ていない、作った笑みだった。
「分かった」
直斗がおばさんに返事をする。
その目はとても真剣で。
私も、コクンと頷いた。
おじさんはまだ帰ってきていなかった。
「父さんは?」
「残業だって言っていたわ。」
おじさんが帰ってこないことに、安心した。
出来るだけ真実を知る人を少なくしたい。
リビングにあるテーブルを囲むようにして座る。
おばさんが、お茶を入れ、持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
おばさんも椅子に座った。
3人の間に沈黙が流れる。
空気が重い。
私はゆっくりと息を吸った。
「・・・おばさん。さっきの話、聞いたんですよね?」
いつも通り言ったはずなのに、声は震えていた。
「・・・ええ。」
おばさんは、ゆっくり、でもはっきりとそう言った。
私の隣にいる直斗が、テーブルの下で私の手を握った。
びっくりして、思わず握られた手を見た。
私の手は、小刻みに震えていた。
大丈夫、そう直斗に言われている気がした。
「・・・私、本当は遥香なんです。」
おばさんが息を呑む。
「事故に遭った日、私と涼香はバックを取り間違えました。私達を見分けられる人がいなかったので、持っていたバックで見分けられたんです。」
おばさんの顔が悲しみに歪む。
おばさんの瞳には少しずつ涙が溜まっていって。
もうこぼれ落ちそうだった。
「目が覚めた私は、お母さん達に、遥香は死んだと聞かされました。」
おばさんが口元に手を当てた。
その手は、震えていた。
「遥香のお葬式は終わったと言われ、私はもう遥香として生きられないんだと思いました。」
おばさんの瞳から涙がこぼれ落ちた。
「私が遥香だと気付いたのは直斗だけでした。」
私の手を握る直斗の手に、力が入る。
直斗の手も少し、ほんの少しだけ震えていた。
「私の、母方の祖母には全てを話しました。今、私が遥香だと知っているのは、直斗と、祖母と、おばさんだけです。」
私の瞳からも一筋の涙がこぼれ落ちる。
これで全て。
私が涼香として生きている理由。
それは、両親に間違えられたから。
これほどまでに悲しいことが、他にあるのだろうか。
私にはないと思う。
「・・・遥香ちゃんは、それでいいの?このままで。」
おばさんは、辛そうな顔をしていた。
私だって、このままでいいとは思ってない。
でも、どうすればいいのか分からない。
どんどん"私"の居場所がなくなっていくんだ。
「・・・遥香ちゃん。いつでもおいで。」
おばさんは、優しく笑ってくれていた。
「直斗もいるし、私もいるから。辛くなったらいつでもおいで。」
涙がこぼれ落ちる。
いつからこんなに泣き虫になったんだろう。
涼香が居た時は、こんなに泣かなかったのに。
お母さん達にも、こんなふうに全てを話せたらいいのに。
「・・・っありがとうございます」
涙を拭いて、そう言った。
「もう9時だから、今日は帰りなさい」
おばさんの言葉に、一気に現実に引き戻されて。
やっぱり家には帰らなくちゃいけない。
帰ったら、"私"の部屋が無くなってたりしないよね?
これで無くなってたら、"私"はどうすればいいんだろう。
「・・・遥香ちゃん?」
おばさんに声をかけられてハッとする。
ダメだ。
心配はかけられない。
「・・・帰りますね。ありがとうございました!」
私は席を立ってペコッと小さくお辞儀をした。
玄関で靴を履いていると、直斗が見送りに来てくれた。
「本当に大丈夫か?」
直斗が心配そうに聞いてくる。
そんな心配そうにしないでよ。
私は、大丈夫。
「大丈夫だよ!また来るね!」
私はそれだけ言って、直斗の家を出た。
大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせる。
自己暗示。
深呼吸をしてから、私の家のドアを開けた。
~エリカ「孤独」~