君は私の人生の、輝く太陽。






「・・・なにか悩みがあるんでしょう?」







お茶を飲んでいる私に、お母さんは問いかける。








その声は、泣いた子供をあやすようで。








とても優しい声色だった。








────話したい。








そう思ってしまう。







でも。







────話せない。







これだけは話せない。







なにも言わずに俯いた。







「・・・遥香がいなくなってから、涼香もこの家も暗くなったのよね。遥香がいた頃の方が、今よりも明るくて、いつも笑っていたわ。」







確かに、この家は暗くなった。








"涼香"がいなくなったことによって。








「2人はお母さんとお父さんにとって、宝物だったのよ。」







お母さんに視線を合わせると、辛そうに微笑みながら"私"の写真を見ていた。








そのお母さんの表情からは、寂しさや辛さ、悲しさがにじみ出ていて。







私はそんなお母さんの顔から、ゆっくりと目をそらした。








「2人が生まれた時もねぇ、仲良しだったのよ。お父さんが初めて2人を抱いた時ね、2人は手を繋いでいたのよ。」






知らなかった、私たちが生まれた時のこと。







お母さんは懐かしむように話を続ける。







「2人が初めて話した言葉もね、お互いの名前だったのよ。遥香は"りょーちゃん"、涼香は"はーちゃん"って。」








確かに、小学1.2年生の時までは、お互いをそう呼びあっていた。







でも、大きくなるにつれて、そう呼ぶのに恥ずかしさを覚え、いつしか呼ばなくなっていた。







まさか、それが初めて話した言葉だとは思わなかった。








「まさかいなくなるなんて思わなくて。こんなことになるなら、もっと好きなことをさせてあげたかった。」







お母さんの声が震えていく。








マグカップを持つ手も、小刻みに震えていた。








お母さんの瞳から、一筋の涙が零れる。








その涙を境に、どんどん溢れ出して。







お母さんの頬に筋を残していく。








私の視界も涙で歪んでいく。








喉がきゅっとしまって。







熱い。痛い。








「後悔したってもう遅くって。辛くて、悲しくて、悔しくて。お母さんとお父さんね、凄く泣いちゃったのよ。」







「え・・・」







知らなかった。







お母さんとお父さんが泣いた?








いつ?どこで?








全然気づかなかった。








自分だけが辛いんだ、悲しいんだ、そう思ってた。








もしかしたらお母さん達は"私"がいなくても平気なんじゃないかって。








でも違った。






ちゃんとお母さん達は愛してくれてた。









お母さん達は"私"がいなくなった事で泣いてくれた。








それがとてつもなく嬉しい。








「遥香の分まで涼香を愛そうって、同じ後悔をしないようにしようって決めたの。お母さんとお父さんで。それなのに、涼香の悩みに気づいてあげられなくて・・・っ!」








お母さんが手で顔を覆う。








ごめん。ごめんなさい。








お母さんをこんな顔にさせて。








私は親不孝者だ。








「ごめんね涼香・・・っ!」








「ううん・・・っ!私の方こそ、なんにも話さなくてっ」








言葉が続かない。






なんて言えばいい?







なんて言えば心配させなくて済む?







お母さんを泣かせたくなんかない。








ただそれだけなんだ。






< 69 / 101 >

この作品をシェア

pagetop