君は私の人生の、輝く太陽。
6章
クリスマスローズ
***
誰も聞いていない、ハゲた校長の話。
ありがたいお話、とか言うけれど、これっぽっちもありがたくない。
修了式中の今、校長の話を聞いている生徒はおそらくいないだろう。
いたとしても数えるほどだ。
特別この学校が不良校ということではない。
世界中の子供たちが聞いていないと思う。
チラッと時計を見れば、校長が10分も話していることが分かる。
そろそろ終わらないかな。
周りの生徒達も、下を向いたり隣の人と話したりしている。
針がそれから五分後を指した時、校長は話を終えた。
だるそうに立ち上がり、礼をする。
ため息も聞こえてきた。
修了式も終わり、生徒達はだるそうに腰が痛いと言いながら体育館を出ていく。
私もそのうちの1人だ。
生徒が1人死んだところでなにも変わらない。
それならば、私が死んでもなにも問題はないんじゃないか。
全てが嫌になってくる。
お母さんと喧嘩をし、直斗の家に逃げ込んだあの日から1週間。
特に何も無かった。
莉心ちゃんと仲直りをしたいとも思わなかった私は、話しかけにすら行っていない。
クラスでは常に1人だ。
一人でいることに少し慣れた自分がいる。
「帰ろーぜー!」
教室のドアを開けて私に向かって直斗はそう言った。
私達が付き合っていることは、誰にも言っていない。
それに、前から登下校を共にしていた私達が、今さらそんなことでは疑われない。
「直斗!今行くねー!」
私はすぐにスクールバッグを手に持って直斗の元へ向かった。
直斗は学校では私の名前を呼ばなくなった。
"涼香"と言わなければならないから。
直斗は私を"涼香"と呼ばない。
それは、私が今の家に戻ってきてからだ。
きっと気を使わせている。
私の存在が。
あってはならない私の存在が。
直斗に気を使わせている。
そう思うと苦しい。
「ねぇ直斗。」
もう家の近くで、周りに生徒の姿はない。
私たちの家は学校から歩いて30分もかかる位置にある。
だから、近くに同級生の家は少ない。
「流れ星ってさ、願い事を叶えてくれるんだよね。」
私は空を見上げる。
当然だけど、まだ夜じゃないから星は見えない。
「本当にどんな願いでも叶えてくれるのかな。
」
目の淵に涙がたまる。
ダメ。泣いちゃダメ。
泣かないって決めたのに、結局たくさん泣いている私は、涼香になりきれていない。
だから、これからは本当に泣かない。
泣いちゃダメなんだ。
グッと涙を堪える。
「私を"私"に戻してっていう願い事は、流れ星でも叶えてくれないよね。」
直斗が私の手を掴む。
直斗の手は少し震えていた。
「いつか必ず、遥香を遥香に戻してやるから。」
あぁ、また私は、直斗に気を遣わせた。
また私は、直斗を不安にさせた。
また私は、直斗に負担をかけた。
私が頑張ればいいだけなのに。
「────なんてね!大丈夫だよ!」
私は俯いた直斗の顔をのぞき込みながら、歯を見せて笑った。
直斗はまた悲しそうな顔をする。
「あ・・・」
もう家に着いてしまった。
もっと直斗といたいのに。
家は息苦しい。
帰りたくない。
でも、帰らなくちゃ。
「じゃあね!」
私は直斗から手を離して、家の中に入った。