君は私の人生の、輝く太陽。
ガーベラ
***
直斗と家の前で別れてからもう1時間。
話すために家に帰ったのは良いものの、まだ話す決心がつかない。
直斗といる時は、話そうと決めたのに。
一人になった途端に心細くなる。
私はベッドの枕元にある、少し大きめのうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。
「・・・大丈夫。頑張るって決めたじゃない。」
本当は怖い。
もし、私が遥香だと信じてくれなかったら?
もし、認めてもらえなかったら?
そんな考えが、ぐるぐると頭をめぐる。
────コンコンッ
窓に目を向ける。
私は、カーテンと窓を開けた。
「・・・まだ話せてないんだろ?本当は不安で押しつぶされそうで。遥香なら大丈夫だから。」
なんで直斗には全部分かってしまうんだろう。
だってまだなにも言ってない。
なんで。
きゅっと唇を固く結ぶ。
「大丈夫だから、な?なんかあったらこっちに来い。俺はいつだって遥香の味方だ。」
どんな時でも私が辛い時は来てくれる。
どんな時でも私が1番欲しい言葉をくれる。
「────直斗、ありがとう。」
私は溢れそうになる涙を堪えながら、笑った。
自然に笑えていたか、なんて分からない。
「直斗は私のヒーローかもね。」
「そんなことねぇよ。ただ俺は、遥香と涼香の幼なじみで、遥香の彼氏。それだけ。・・・だろ?」
ニカッと笑った直斗に胸が高なる。
やっぱりヒーローだよ。直斗のバカ。
「・・・そうだね。でも、私の中では、幼なじみで、彼氏で、ヒーローなんだよ。」
「そっか・・・。ヒーローも悪くねーな!ただし、俺は遥香だけのヒーローだ。」
「っ・・・うん。」
私だけの、ヒーロー。
私だけ。
ほかの誰でもない、"私"のヒーロー。
「・・・ねぇ直斗。私、頑張るから。今日ちゃんとお母さん達に話すから。だから────」
「────分かってる。大丈夫だ。遥香なら出来る。辛くなったら俺んとこに来ればいい。ここから応援してるから。」
私の言葉を遮った直斗は、私の欲しい言葉をくれる。
私なら出来る。
直斗はそう言ってくれるけど、やっぱり少し不安で。
「ねぇ直斗。私は────」
「遥香はひとりじゃない。」
「・・・まだなにも言ってないのに。」
なんで分かっちゃうの?
「んなもん、彼氏なら当然だろ」
私はひとりじゃない。
味方がいる。
幼なじみが、彼氏が、ヒーローがいる。
直斗がいてくれる。
「うん。ありがと直斗。」
「おう。頑張れよ。」
直斗のその言葉を聞きながら、私は窓を閉め、カーテンも閉めた。
私は出来る。
だってひとりじゃないから。
不安に思うことなんてない。
私にはたくさんの味方がいるから。
だから、大丈夫。
ふと時計を見ると、短い針は10を指していた。
いつの間にこんなに時間が経っていたんだろう。
「────よしっ!」
私は両手で頬を叩く。
そして、部屋のドアノブに手をかけ、扉を開けた。
テレビの音が聞こえるリビングの前。
深呼吸を繰り返す。
どうなるかなんて分からない。
ただ真実を話すだけ。
それだけだから、なにも怖がることは無い。
分かってはいるけど、手が震える。
ぎゅっと手を握りしめてから、扉を開けた。
「────お母さん、お父さん。」
2人はテレビから私へと視線を向けた。
ドクドクと鼓動が速くなる。
「・・・私の話を、聞いて欲しいの」
話そう。話すんだ。
真実を、2人に。
私は強い。私なら出来る。
だってひとりじゃないから。
味方がたくさんいるから。
だから、お願い。
真実を知っても、どうか私を見捨てないで。
真実を知ったら、私を"私"として見て。
私の願いはそれだけなの────。