聖なる夜に~涙はそっと絡め取られて~


頭に一気に血が登ったあたしは、ここがずっと憧れていたホテルだということも忘れて、手に持つバッグを彼に投げつけた。

「何なの!?あたしが悪いっていうの!?」

怒り任せのバッグは、雄大を掠めることなく、ベッドの片隅に落ちた。

「女の憧れを話して、何が悪いの?無理してまで、連れていってほしいなんて、言ってないわよ!」

「言ってるだろ。心の声、めちゃくちゃ、聞こえてくるんだけど」

「だからって……!」

ここまで来て文句言うなんて。

「せっかく連れて来てやったんだからさ、少し黙ったら?」

うるさそうに、眉間の皺を深めた雄大が近づいてきて、あたしの頬に触れる。
そのまま目を閉じてキスしようとするから、あたしはその手を払い除けた。

この状況で、キスするとか、信じられない!

「誤魔化そうとしないで!あなた何様なの?何でそんなに上から目線なの!?」

駄目だ、それ以上言ったら駄目だ!という理性の声は効かなかった。
あたしの口から飛び出た言葉に、雄大は口を歪ませる。

「……もういいよ」

< 4 / 12 >

この作品をシェア

pagetop