聖なる夜に~涙はそっと絡め取られて~
「聖なる夜に、涙は禁物ですよ」
手のひらを掴まれて、身を翻された。
誰……!?
驚き、瞬きすると、クリアになる視界にいたのは。
ビシッとスーツを着こなす男性。
銀縁眼鏡が知的な雰囲気を醸し出し、黒髪が自然に後ろに流されている。
随分背が高いその人は、優しく微笑んでいた。
その微笑みに、胸が高鳴る。
ちょっとやそこらじゃ、見かけない、極上のイケメン。
「すみません。当ホテルの支配人、島崎(しまざき)です。たまたま通りかかった所、何やら怒鳴り声のようなものが聞こえたものですから、様子を伺っておりました」
島崎さんは申し訳なさそうに言うが、あたしは顔が真っ赤になる。
あの喧嘩、外にまで響いていたのだ。
「女性が無理矢理、連れこまれている可能性もありましたから」
「す、すみません。痴話喧嘩です。恋人と言い合いになってしまって……」