聖なる夜に~涙はそっと絡め取られて~
荷物を持って向かいますから先に向かっていてください、と指定されたのは、ホテル最上階にあるバー。
エレベータを降りるとどこも肩を寄せ合ったカップルばかりで。
いたたまれなくて、エレベータの前から一歩も動けなかった。
「……っ……」
その横を一人の女性が足早に通り過ぎる。
「雄大さん。まさか、会えるなんて思わなかったです!」
その女性が興奮した面持ちで声を掛けた相手は、何と、先ほど、あたしの部屋から飛び出た雄大だった。
「仕事早めに終わったんだ。ごめんな。急に呼び出して」
「ううん。大丈夫だよ。むしろ、会えないと思ってたから、とても嬉しい!」
……雄大。
仕事、なんかじゃないよね?
さっきまであたしと会っていたのに。
あたしが駄目なら、その子を呼ぶの?
その子は誰?
「……恋人の二股を見つけてしまいましたか?」
耳もとで急に囁かれて、飛び上がる。
慌てて振り返ると、島崎さんが立っていた。
「……っ……」
また涙が滲んでくる。
きっと、ずっと、二股されていたのだろう。
仕事が忙しい、とあたしに言いながら、きっとあの子と会っていたんだ。
悔しさやら悲しさやらで、グチャグチャの思考がハタと止まったのは、熱を持った唇が、目尻に触れたからだ。
「あんな最低な男、忘れてしまいなさい」
「……どうやって、ですか……」
「僕が忘れさせてあげましょう」