あの日、あの時。
初恋。
勉強は嫌い。
少し前までどの科目もそこそこ出来た。
だけど今は部活も忙しいし友達と遊ぶ方が断然楽しい。
宮原桜子。
中学二年生。
まだまだ子供扱いされるし実際に子供。
何をするにも親の許可が必要だし自分の好き勝手には出来ない。
早く大人になりたい。
陸上部に所属してる。
種目は短距離走。
走るのは好き。
たった十数秒だけど全てを忘れられるし、スタート前のあの緊張感もたまらない。
それにゴールした後の爽快感!
本当に最高!
今年になって部活の監督が代わった。
陸上の強豪校からやって来た監督だ。
私の記録はグングン伸び続けてあっという間に県内のトップにまで上り詰めていた。
大きな試合になると大体同じ顔ぶれの選手ばかり。
必然的に他校の選手とも仲良くなる。
けれど私は他人にあまり興味が無い。
あの日、あの時までは…。
いつも試合の合間の空いた時間はストレッチをしたり、音楽を聞いてリラックスしたりマイペースに自分の事だけに集中している。
だけどその日は風が心地よくて、なんとなく観客席に座って走り高跳びを眺めていた。
バーの高さがどんどん上がっていく。
そして次々と選手が脱落していく。
走り高跳びの選手は長身でスラリとした人が多い。
今まさに助走を付けて跳ぼうとしている選手もそんな感じだ。
そしてこの高さを跳べたら彼の優勝が決まる。
トン、トントントン…
聞こえるはずのない助走の音が聞こえた気がした。
あまりにも綺麗なジャンプに私は目を奪われた。
跳べた!
バーは揺れもしない。
その瞬間優勝が決まり彼は笑顔で小さくガッツポーズをしていた。
名前さえ知らない彼の笑顔を見て、なぜか私まで笑顔になる。
今振り返れば、これが私が恋に落ちた瞬間だった。