あの日、あの時。
出会い。
陸上のシーズンは秋に終わり、その後シーズンオフに突入する。
次に試合が始まるのは春だ。
あの彼を次に見かけるのは数ヵ月後だろう。
残念だけどこればかりは仕方ない。
そんな娘の気も知らず母が言った。
「桜子ももうそろそろ進路の事も考えないと。成績も落ちてるし…。塾にでも通ったら?」
そう来たか。
確かに成績はかなり落ちていたし高校になっても陸上を続けるとは限らない。
それにいくら陸上で活躍していたとは言え推薦を取れるかも正直分からない。
ぐうの音も出ないとはこの事だ。
「分かった。塾に通う事にするよ。」
私は母の要求をあっさりと飲んだ。
すると母は
「今はA塾が良いらしいのよ!」
と塾のチラシを差し出した。
どの塾に通うかまで決めていたなんて…。
母は私の事をよほど心配していたのだろう。
自分自身をそう納得させ、その塾に通うことにした。