あの日、あの時。
塾は成績毎にクラス分けされている。
AクラスからEクラスまで全部で5クラスあり私はCクラス。
真ん中なのでとりあえず良しとしよう。
それから週に2日。
部活が終わってから塾に通うようになった。
気がつけば2ヶ月が過ぎ、下がっていた成績も元の水準まで戻っていた。
冬休みに入り冬季講習が始まると一気に入塾する人が増えた。
冬季講習で入塾して来る人はCクラスからスタートする為、教室は人で溢れかえっている。
数学の時間になり講師が問題を出した。
その問題は難題でCクラスの生徒にとっては解けるはずのない問題だ。
「解けた者は挙手を。」
私は心の中で舌打ちした。
絶対にわざとだ。
答えられないことをわかっていて楽しんでいるんだ。
私ってばなんてひねくれた考えの持ち主なんだろう。
自分でもイヤになる。
そんな時、一番前の席の男子生徒が手を挙げた。
「柴山君。では答えを。」
彼は席を立ちホワイトボードにスラスラと答えを書いた。
すると講師は目を丸くして
「素晴らしい。完璧だ。」
と彼を誉め称えた。
数学の講師が生徒を褒めるのはとても珍しく皆一様に驚いていた。
けれどそれよりももっと驚く事が起こる。
背を向けていた彼がこちらを向いた瞬間、心臓が止まりそうになった。
頭の中は真っ白になり顔が火照っていくのがわかる。
走り高跳びの「彼」だった。
名前すら知らなかった彼が今私の目の前にいる。
心臓がドクンドクンと鳴る。
こんなことってあるの?
あり得ない。
何分経っただろう。
少し冷静になった私は頭を整理し始めた。
とにかく「彼」は「柴山君」という名前で同じ塾。
そして数学が得意らしい。