ベルパーソンの君が導くのは次の恋
記念日
「萩原、チェックイン済ませてくるから待ってて」
部長の言葉に私は小さく頷き、左手の腕時計に視線を移した。
出張先のこの地での仕事を早々と切り上げても、既にアナログ時計の針は夕方に差し掛かっていた。
明日のチェックアウトまで丸一日もない。
時計を気にすることもなく部長とのんびり過ごすことなど、決して叶わない。
彼の薬指に光る指輪を見て見ぬふりをして1年がが経つ今日のこの日を
仕事ついでと言えど、彼の方からお祝いしようと言ってくれただけ、私はまだ幸せな愛人なのかもしれない。
それでも
愛しいの人の名前を言葉にできず
心の中でそっと呟いて
そのたびに自分の心に消えない爪痕を残しながら1年目の今日
幸せな気持ちと
見えない傷の痛みの両方が
私の胸をしめつけていた。
彼が受付を済ませている間も
こんな関係の私たちを追い詰めるように
秒針はいつもより早く時間を刻んでるようにも見えた。
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