ベルパーソンの君が導くのは次の恋
そんなことあるわけないのはわかってる。
苦笑いを噛み殺しながら、視線をはずしたその先に、客室案内係のホテルマンの姿が視界にはいった。
瞬間
目が合った気がしたけれど
私の気のせいだったのか、彼は静かに受付を済ませた部長のもとへと歩み寄る。
「萩原っ」
部長に呼ばれ、小走りに着いていく。
私たちを誘導するホテルマンの後ろで
私と部長はあくまでも、上司と部下を演じていた。
「明日、飛行機の搭乗前に、例の取引先と会う時間はとれそうか?」
「急な申し出でしたが、午前中に飛行場近くのお店に予約をとりました。」
「それなら良かった。」
デートのはずでも、警戒心の強い部長に合わせて、どんなに会社から遠く離れた土地でも、二人きりにならない限りは親密さを匂わさない。
私を好きだといいながら
私が心の癒しなんだと囁きながら
私の存在を隠したがる部長の頭の中に
私はちゃんと彼の恋人の立ち位置にいることがきているのかさえ
たまに不安になる。