さよならは言わない
次に会った人は、30目前のものすごく年上の人だった。
初めて会った人よりも、ガツガツしていなかった。
これがいわゆる、『大人の余裕』というものかと物凄く感心したのを覚えている。
1回目は、ただ食事をして(チェーン店の居酒屋だったけど、いつもは行かないような所でちょっぴり緊張した)バイト先に送ってもらった。
2回目も同じ店でご飯を食べてバイト先に送ってもらったのだけれど、最後にキスをして別れた。
付き合ってもない人とキスをするのが背徳的で、ドキドキした。
3回目は、彼の家に遊びに行った。
飼っている猫ちゃんが物凄く可愛くて、でも人見知りで、それに一人暮らしの男の人の家は初めてで。
緊張が解れた頃、私は彼とセックスをした。
初めての行為は痛かったけど彼は優しくしてくれて、嬉しかった。
好きな人とできたらどんなに幸せか。
それを考えると素直に喜べなくて、気持ちいい気持ちもよく分からなかったけれど、一瞬でも何かが満たされる行為は、悪くないと思った。
思ったからこそ、私はこの一連の行動を辞められなかったのだと思う。
4回目も5回目も彼の家に遊びに行って、もちろんやった。
6回目はなかった。
些細なことで喧嘩をしたからだ。
連絡先は交換していたけれど、こちらからはもちろん連絡しなかったし向こうからも連絡が来なかったので、削除した。
彼とはそれから会うことはなかった。