極上な彼の一途な独占欲
うう…。暢子のため息が突き刺さる。

葵ちゃんは責任を感じたらしく『私が不勉強なせいですみません』と必死に頭を下げてきた。

そんなこと言わせるつもり、全然なかったのに。ごめんね、葵ちゃん。


「で、どうするの」

「帰りにディーラーのショールームに寄って、お客様がどんな質問をするのか調べてきた。これを研修に入れる」

「さすが、やること早い」

「このままじゃ終わらせられないもん」


たとえ私の首があと数日の命だとしても、これ以上あの悪魔に女の子たちをバカにさせておくのは許せない。


「明日、お詫びに行くからあんたも来るのよ」

「はい…」


憂鬱すぎて泣きそうになった。


* * *


「別にそんなこと、考えてもいない」

「え?」


私と暢子の声が重なった。

ご挨拶だけでもと急に訪れたため会議室が空いていなかったらしく、通されたのは豪奢な応接間。首切り宣告にふさわしい場な気がして、入ったときから私は緊張に縮こまっていたというのに。


「…今後もお取引を続けさせていただけるということで、よいでしょうか」

「新規取引先を探せと言うなら、そうするが」


いえいえいえ、と暢子とふたりで頭を振る。


「話はそれで終わり?」

「はい…あっ、こちら、みなさんで召し上がってください」

「どうも」


どうせ突っ返されると内心あきらめていた手土産も、すんなり受け取ってもらえた。私は拍子抜けして、「事務所の近くの、有名なパティスリーのプリンなんです」といらない情報を口走ってしまう。

パールホワイトの紙袋を手に立ち上がりかけていた伊吹さんが、「へえ」とそれに目を落とした。
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