極上な彼の一途な独占欲
「会っちゃったの。今車関係のライターしてるんだって。だからショーに来てて」

「あらま」

「女の子の部屋に入ってたって男も、ヒロのこと」

「…あらま」


私の苛立ちとショックを察したんだろう。暢子は少ない言葉の中に、ヒロへの非難をにじませる。


「相変わらずろくでもないことしてるのね」

「…わからない。仕事は前よりはまっとうみたいだし」

「ずっと気になってたんだけど。あの男のほうは、あんたがあのとき、すごく傷ついたってことを、知ってるの?」


気がかりそうな目つき。

私は「さあ」とコンビニカフェで買ったコーヒーをすすった。


「わざわざ問いただしたことなんてないもん」

「案外ああいう男は鈍くて、自分が傷つけた自覚もないものよ。それで無頓着に近づいてこられたら、あんたばかりストレスなのよ。いい加減けじめつけたら?」


答えない私の顔をしばらくじっと見つめた後、暢子は力づけるように私の肩を叩き、「早く寝るのよ」と母親みたいなことを言って部屋へ上がっていった。

深いため息が漏れた。

"けじめ"が必要なのはわかっている。でもそれは暢子の言うような、ヒロとの間でつけるものじゃなくて、きっと私の心の問題。

私の成長のなさの問題。

懲りずにまた恋なんてものをしようとしていた、私の問題だ。


* * *


「おはよう」

「あっ、おはようございます」


ホテルのエレベーターを降りたところで、伊吹さんと一緒になってしまった。

今は会いたくないのにな、と心の中でぼやきながら、またしてもあまり眠れなかったせいで調子のよくない顔をストールで隠した。

彼はいつもと変わらず、清潔な香りをさせて、全身が完璧に目覚めているのがわかる。今日は黒に近いグレーのスーツに、ダークレッドのネクタイ。

伊吹さん、このネクタイお気に入りだな。これだけ連日顔を合わせていると、ワードローブも把握できてくる。
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