極上な彼の一途な独占欲
「今日もか」

「え?」


日に日に冷え込みが増すおかげで、外に出ると寒さに身体が緊張する。

伊吹さんが白い息を吐いて、こちらを見た。


「どこかおかしい」

「おかしい、とは」

「しらばっくれるってことは、自覚があるんだろ」


答えられず、ストールの中にため息を吐いた。この人嫌だ。


「あの、申し訳ありませんでした、ホテルの部屋の件。三好から報告させていただいたと思うんですけれど」


微妙に話題をずらした私を、彼が観察しているのがわかる。私は前方に目をやったまま、探るような視線を受け止めた。


「…報告はありがたいが、謝ってもらう必要はない。ブースでのパフォーマンスに影響が出ない以上、こちらはスタッフの素行にまで干渉する気はない」

「監督不行き届きでした」


守衛さんと気軽に手を挙げて挨拶をかわしながら会場に入る。

建屋の中も息が白い。

私はストールの中で自分の息が結露するのに閉口し、顔を埋めるのをやめた。しばらく無言が続き、やがて伊吹さんが口を開いた。


「天羽とスタッフの関係に関しても、なにか思う立場にない」

「やっぱりお気づきでしたか…」


鋭すぎる、この人。

葵ちゃんに当たった自分の醜さを思い出し、がしがしと頭を掻くと、くすっと彼が笑った。


「すみません、お見苦しいところを」

「だから、俺に謝ることじゃない。人の管理をする人間は、自分に余裕がないと間違う。なにか気になってることがあるなら、そっちを先に解決しろよ」


何気ないアドバイスだったけれど、ぐさっと来た。
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