極上な彼の一途な独占欲
自分に余裕がないと間違う。

その通りだ。

思わずぐっと奥歯を噛みしめた。


「私ちょっと、神部のところに寄ってから行きます」

「え? ああ、わかった」


私は逃げるように伊吹さんと別れ、なんの用があるわけでもないのに神部のいるホールを目指した。

28歳って、こんなんでいいのか。

地元にはもう二人目の子供がいる友達だっているのに、私はいまだにあんな、元カレだの恋だのに振り回されて、仕事にまで影響を出して。

私がダメなだけなのか。

もっと、スマートにできていいはずなのか。

カーペット敷きの床を大股に歩いているうち、どんどんみじめになってきて、神部のブースに着く頃にはべそをかいていた。そしてそのおかげで、用ができた。


「神部…」

「なにあんた、朝っぱらからその顔!」

「クレンジングと化粧水とコンシーラー貸して…アイメイクやり直す」


神部はあきれ顔で、けれど深くは問い詰めず、使い勝手のよさそうなメイクボックスから、頼んだものを貸してくれた。




人が人を呼び、来場者数は日に日に増える一方だ。土日の混雑には及ばないものの、平日の来場としては、今日も先週とは比較にならないほど多い。

女の子たちも成長著しい。実戦で磨かれ、自信をつけて輝いている。

一人ひとりの仕事ぶりをチェックしながらブースを歩いていたら、男性物のハンカチが床に落ちているのを見つけた。

拾い上げようとしたところ、同じことを考えた男性がいたらしく、手がぶつかる。お互い「すみません」と謝ってから相手に気づいた。

伊吹さんだった。


「あっ、これ…伊吹さんのですか」

「いや、違う。誰かの落し物だろう」


彼は踏まれた形跡のあるハンカチの汚れを払い、きれいにたたみ直した。
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