極上な彼の一途な独占欲
「私、受付に届け出を出しておきます。スタッフに用事もあるので」


手を出すと、伊吹さんはその手を見下ろして、少し考えてから微笑んだ。


「じゃあ、よろしく」

「あ、いたわ、天羽ー」


そこに特徴のある声がした。神部だ。ペンのようなものを振りながらこちらにやってくる。


「これ、あんたのでしょ。朝来たとき忘れてったんじゃない? あら伊吹さん、ごきげんよう」


今日はレッドブラウンの合皮のセットアップだ。伊吹さんににこっと笑いかけながら、私にマスカラを手渡してきた。確かに私のだ。借りたものと一緒に間違って返してしまったに違いない。


「ごめん、ありがとう」

「いいわよ。じゃね」


どこかへ行く途中だったらしく、足も止めずにそのまま去っていく。

ハンカチとマスカラを手に、その背中を見送った。同じく見送っていた伊吹さんと同時に顔を戻し、目が合ってしまう。

なにか言わなきゃ、と焦った。


「あ、あの、朝、ほんとに神部のところに行ったんですよ、私」


言い終わる前に、自分のバカさに呆れた。

案の定、伊吹さんの顔がみるみるしかめ面になっていく。


「…別に疑ってない」

「自意識過剰でした…」


泣きたい。

うつむいたところに、ため息が聞こえる。


「どうしたんだ、言いたいことでもあるなら言え。気になって仕方ない」

「違うんです、伊吹さんがどうこうという話では、全然なくて」

「じゃあ誰がどうこうという話なんだ」
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