極上な彼の一途な独占欲
そりゃそう来ますよね。

ええと…。

どこかでトラブルでも起こってないかなあ、とこの場を去る言い訳を探して、はっとした。

ヒロがこちらに来る。

きょろきょろしながらブースに入ってきたヒロは、こちらを見るとあっと嬉しそうな顔をして「伊吹さん」と声をかけた。


「こんにちは、すみません、今日、広報さんにお話聞かせていただくお約束なんですが、どなたもブースにいらっしゃらないみたいで」

「あ、それは失礼」


振り返った伊吹さんはそれを聞くとすぐに、胸元のマイクに手を当てる。


「伊吹です、誰かそばに広報部員見える人」


少し耳を澄まして、再びマイクのスイッチを押し、「ライターの結城さんがいらしてると伝えて」と短く伝えた。


「すみません、助かります」

「いや、こちらこそ申し訳ない。今バックヤードにいるので、すぐ来るそうだ」

「わかりました」


にこっと笑ってうなずいたヒロが、私に視線を向けた。


「お疲れ」

「…お」


疲れ様、という続きは小声すぎて、どうやら誰にも聞こえなかったみたいだった。

ぼそぼそと口だけ動かす私に、「え?」とヒロが無邪気に耳を寄せてくる。

暢子、やっぱりこの男、人をボロボロにした自覚なんてこれっぽっちもないかも。


「伊吹さんと仲いいんだ?」


純真な笑顔のまま、ヒロが言った。

私は耳を疑い、「なに?」と棘のある聞き返しをしてしまう。

ヒロは悪気のなさそうな素振りで、私と伊吹さんを指さした。
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