極上な彼の一途な独占欲
「この間も一緒にいたし」

「いたって普通の関係です、バカバカしいこと言わないで」


思わずかっとなってから、我に返った。

伊吹さんもヒロも、ぽかんとして私を見ている。伊吹さんの、驚きに見開かれた目に罪悪感を掻き立てられて、私はうろたえた。


「ごめんなさい…失礼します」


言い訳もそこそこにその場を離れ、手っ取り早くふたりの視界から消えるべく、建屋の外に飛び出した。

ダメだ、もう、なにやってるのよ私。

自分を立て直すどころじゃない。関係ない伊吹さんにまであんな顔させて。

外は寒風ふきすさぶ冬の空気。建屋に当たって跳ね返ってくる強い風に髪をあおられながら、ジャケット一枚の身体を両手で抱いた。

今日は午後から別件の打ち合わせで出かけなくてはならない。

見積もりで揉めていることもあって若干憂鬱だったその外出が、今となっては待ち遠しい。

ぐるっと歩いて気分を落ち着けようと足を踏み出したとき、ぐいと肩を引かれた。

はっとして振り返った。

ヒロだった。


「なにやってんだよ、美鈴、クライアントの前であんな態度、よくないよ」

「…なんであんたが追いかけてくるの」

「伊吹さんに来てほしかった? なーんだ、やっぱり仲いいんじゃん。なにあの感じ悪いしらばっくれ方。子供か」

「子供はそっちでしょ!?」


相変わらずずけずけと、遠慮がない。なのに平然としてにこにこ微笑んでいる。昔はこういうふてぶてしさが頼もしくてかわいくも感じた。けれど今は、いつまた傷つけられるんだろうかと、心がひとりでに緊張する。
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