極上な彼の一途な独占欲
つい大きな声を出した私に、ヒロはきょとんとして、降参のしるしみたいに両手を広げてみせた。


「なんで俺が子供なのさ。美鈴より年上だよ。ちょびっとだけだけど」

「年齢の話なんてしてない」

「なあ、時間作ってちょっと話そうよ。せっかく会えたんだからさ」

「話したいことなんてない。"せっかく"なんてこれっぽっちも思ってない」


ちょっと傷ついた顔でヒロが黙る。

そういうところが卑怯。


「…ねえヒロ」

「うん?」

「私と別れた頃、移るって言ってた出版社あったよね。あそこはどうしたの」


ヒロの目が、記憶を探るように一瞬上のほうを見た。それから軽く肩をすくめる。


「行ったけど、一年くらいで辞めちゃった」


最後まで聞かずに私は身をひるがえした。

私を利用して、その会社への切符を手にしたくせに。やっぱりその程度のものだったんだね。

もう嫌だ。

忘れたかった自分の愚かさが、ヒロと一緒に追いかけてくる。

全然卒業できていない。あの頃から一歩も進んでいない。ちっとも成長していない自分を思い知る。

もう嫌だ。


* * *


「相談事? いいけど」

『悪いわね。じゃあ少ししたらそっち行くわ。何号室?』


私はホテルの部屋番号を神部に伝えた。

打ち合わせから帰ってきたところで、もうショーも終わった夜9時。夕食は途中で食べてきたので、もう寝ようと部屋着に着替えたところに電話がかかってきたのだ。
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