極上な彼の一途な独占欲
「女性社員が喜ぶと思う。ありがとう」


笑顔こそないものの、礼儀正しくお礼を言われてしまい、どうしたらいいのかわからない。

あっ、もしかして社長の暢子がいるからか! コンパニオンはバカにするくせに、権威には敬意を払うのか、わかりやすい男め。

そんなことを考えつつ、開けてくれたドアをくぐる。暢子と一緒に深々と頭を下げ、エレベーターに向かったところで、伊吹さんが呼んだ。


「天羽(あもう)」


えっ…私?

間抜けなタイミングで、チーンとエレベーターが到着を告げる。顔を見合わせた暢子は、早く行けというようにしっしっと私を手で追い払うと、エレベーターに乗っていってしまった。

なに…まさか私にだけクビ宣告? 担当変更?

そもそも私、伊吹さんの部下じゃないんだけど。そりゃ代理店さんを数えたらうちはしがない孫請けですが、取引先の女性を呼び捨てって普通、しないよね。暢子の前では微妙に態度も柔らかかったし…くそう…。

応接室の前で待っている彼のところへ、足取りも重く戻る。のろのろしたつもりはないのだけれど、近づいてみると伊吹さんの不機嫌が伝わってきた。


「あの、私のことはお嫌いでも、事務所と女の子たちのことは…どうか」


おそるおそる、どこかの総選挙で聞いたような台詞を吐いたとき、紙の束を渡された。A4の、20枚ほどの書類。


「昨日、麻布の店舗に顔を出したの、あんただろ?」


ひえっ!


「失礼しました、私、なにかご迷惑をおかけしましたか」

「いや、そんなんじゃない。あそこは本社の最寄りだから、なにかと情報が入ってきやすいだけだ。車に関心のない人間は、店に入ってきた瞬間わかる。教えてくれたセールスは、天羽が関係者だってことも見抜いてた」

「すごい…」


私は、買わないなりに一応お客様のふりをしたつもりだった。セールスマンて、本当によく見ているんだな。


「店舗に行ったのは、衣装確認のとき、俺がああ言ったからか」

「あっ、そうです、あの、お客様はどういうことを知りたがるのか、調べる必要があると思いまして…」
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