極上な彼の一途な独占欲
「来るときお菓子買ってきて」

『はいはい』


神部たちが泊まっているのは、会場に最も近く、最もゴージャスなホテルだ。5分もかからない。

一緒にお茶でも飲もうと、持参してきたティーバッグとホテルのティーセットをテーブルに出し、お湯を再沸騰させたところでチャイムが鳴った。

私はもこもこしたカーディガンを羽織り、U字ロックを倒してドアを開けた。


「早かったね。なに買ってきてくれた?」


きっとコンビニの袋を提げているだろうと、来客の手元を確認した私は、そこにあったのがスーツの男性の手足だったので呆然とした。

いや、神部だって男性といえば男性なんだけれど。

ベルト、ネクタイ、と順繰りに上へと辿ると、切れ長の瞳と遭遇する。


「伊吹さん…」

「悪いがなにも買ってきてない」

「あの…」


ドアが素早く引かれ、私の手からドアノブが逃げていった。伊吹さんはさりげなく革靴の足先をドアの内側に当て、閉まらないようにしている。

閉めるつもりなんてなかったのに、信用されていないことがわかって少しショックを受けた。


「入っていいか」

「でも、あの、これから…」

「神部さんなら来ない」


きっぱりと彼が言った。

そこでようやく気づいた。彼らがグルだったのだ。

伊吹さんは強引なわりに律儀で、私が許可するまで入ってくるつもりはないらしい。誰が来るかわからないホテルの廊下で押し問答するわけにもいかず、私は彼を中に招き入れた。


「あの、こちらで、お茶でも」

「ここでいい」


そっけなく首を振り、閉めたドアに背中をもたせる。片手をスラックスのポケットに入れ、伊吹さんはまっすぐに私を見据えた。
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