極上な彼の一途な独占欲
10. バカで、ヘタで
「天羽、あんたねえ」
「待って待って、想像してるのと違うから、絶対」
翌朝、両手の爪を立てて襲い掛かってきそうな勢いの神部を手で押し留めた。
神部は大仰に眉をひそめ、じろじろと私を観察する。
「そういえば、夜を伊吹さんと過ごしたわりにはつやつやしてないわね」
「過ごしてません」
「サプライズ訪問してもらったんじゃないの?」
「その響きはなにか違う」
腕を組んでステージをにらむ私を、神部が隣から訝しそうに見ている。
「…なにがあったか知らないけど、元気出しなさいよ」
「ありがと」
我ながら覇気のない声を出したら、ドンと背中を叩かれた。
「しっかりしたら? チャンスを狙ってるのはあたしだけじゃないのよ」
「チャンスってなによ」
「そうやってとぼけてなさい。後で泣いても遅いんだからね」
目の覚めるような赤のニットのセットアップを着た神部は、むっつりと黙りこくる私を呆れたように一瞥して、去っていった。
いいんだってばもう、ほっといて。私なりに、一番平穏でいられる道を選んだつもりなんだから。
サブステージのほうで中山さんと話していた伊吹さんが、ふいにこちらを見た。
目が合った瞬間、なんともいいがたい膠着状態に陥り、私たちはお互いから目を離すタイミングを失ってしまう。
私がうろたえたのが伝わったんだろう、伊吹さんがふっと笑った。
「目立ってるぞ、仁王立ち」
少し離れたところからそう言いながら、腕を組んで脚を開いてみせる。
それが私のまねであることに気づき、慌てて脚を閉じて楚々とした姿勢を作り、通路の端のほうにそそくさとよけた。
伊吹さんはそんな私に笑いかけ、中山さんとの会話に戻る。
これまでと変わらない。いやしいて言えば少し優しい。それは他人行儀とも言えるのかもしれず、私の胸中は複雑だ。
「待って待って、想像してるのと違うから、絶対」
翌朝、両手の爪を立てて襲い掛かってきそうな勢いの神部を手で押し留めた。
神部は大仰に眉をひそめ、じろじろと私を観察する。
「そういえば、夜を伊吹さんと過ごしたわりにはつやつやしてないわね」
「過ごしてません」
「サプライズ訪問してもらったんじゃないの?」
「その響きはなにか違う」
腕を組んでステージをにらむ私を、神部が隣から訝しそうに見ている。
「…なにがあったか知らないけど、元気出しなさいよ」
「ありがと」
我ながら覇気のない声を出したら、ドンと背中を叩かれた。
「しっかりしたら? チャンスを狙ってるのはあたしだけじゃないのよ」
「チャンスってなによ」
「そうやってとぼけてなさい。後で泣いても遅いんだからね」
目の覚めるような赤のニットのセットアップを着た神部は、むっつりと黙りこくる私を呆れたように一瞥して、去っていった。
いいんだってばもう、ほっといて。私なりに、一番平穏でいられる道を選んだつもりなんだから。
サブステージのほうで中山さんと話していた伊吹さんが、ふいにこちらを見た。
目が合った瞬間、なんともいいがたい膠着状態に陥り、私たちはお互いから目を離すタイミングを失ってしまう。
私がうろたえたのが伝わったんだろう、伊吹さんがふっと笑った。
「目立ってるぞ、仁王立ち」
少し離れたところからそう言いながら、腕を組んで脚を開いてみせる。
それが私のまねであることに気づき、慌てて脚を閉じて楚々とした姿勢を作り、通路の端のほうにそそくさとよけた。
伊吹さんはそんな私に笑いかけ、中山さんとの会話に戻る。
これまでと変わらない。いやしいて言えば少し優しい。それは他人行儀とも言えるのかもしれず、私の胸中は複雑だ。