極上な彼の一途な独占欲
まずはやっぱりほっとしている。それから、白状するとさみしくもあり、けれどさすがにそれは勝手すぎるとわかってもいる。

とはいえ、これまでの浮き沈みに比べたら、こんな心の揺れ、ちょっとした毛羽立ちみたいなものだ。そのうちこすれてつるんと消える。

私はその日を待つだけ。




「痛そう、大丈夫?」

「ごめん、美鈴さん。やっちゃった」


今日の何度目かのステージングを終えた遥香が、顔をしかめている。

ステージの上で、ほんの一瞬、足をぐらつかせた。観客にはただよろけただけに見えただろうけれど、遥香と何度か仕事をしたことのある私は、その後の遥香の状態がよくないのがわかった。

さすがプロ、最後まで演出を終え、美しい足取りでステージを降りてみせたものの、人目につかない場所に入ったとたん、駆け寄った私の肩に崩れかかってきた。


「ひねったのか?」


女の子たちが使っている控え室は遠い。あまりにつらそうだったので、私は遥香を小さなほうの控え室に連れてきた。

ステージを見ていた伊吹さんが、私たちの後から入ってきて、ソファに座る遥香を心配そうに見下ろす。

私は遥香のブーツを慎重に脱がせながら答えた。


「ひねったのはほんの少しです。もともと遥香は昔に足首を故障してまして。ちょっとしたきっかけで痛みが出ることがあるんです」

「なるほど」


腫れてはいない。痛めたというよりは、連日のステージングで古傷に負担がかかったというところだろう。


「もうひとりのモデルは」

「今日はオフなので、呼べば来させることはできますが、時間が」

「私、平気だよ、やるよ、あと半日だし」

「こっちもお願いするしかないんだけど、無理はしないでほしいの。ほんとにいけそう?」


遥香が頼もしくうなずく。


「サポーターがあれば楽なんだけど、ホテルの部屋に置いてきちゃったんだ。取ってきてもいいかな」

「その足で大丈夫?」

「俺が送っていこう」
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