極上な彼の一途な独占欲
代わりに取ってこようか、と言おうとしていた私は、思わず彼を見上げた。

伊吹さんが見返してくる。


「ちょうど足用の車がこっちにある。少しでも歩く距離が短いほうがいいだろ」


なぜか私はすぐにはなにも言えず、ぐずぐずしているうちに遥香が答えた。


「助かります、お願いします」


伊吹さんはひとつうなずき、「車を回してくる」と言って控え室を出ていった。

私は遥香の引き締まった足首を見下ろしたまま、座り込んでいた。遥香の視線を感じる。


「伊吹さんとなにかあったの、美鈴さん」

「…別に」

「ねえ、そういうのってなかったふりして、なんの得するの?」


ブーツをまた履くのはきついだろう。私は自分のバッグを漁り、常備してある折り畳みの室内履きを取り出した。


「これ、履いてていいよ」

「今度は聞こえないふり?」

「うん、聞こえないふり」


遥香が大きなため息をついて、室内履きに足を入れる。


「私、遠慮しないよ」


神部の言葉を思い出した。


──チャンスを狙ってるのはあたしだけじゃないのよ。


知ってるし。

だけどもう、そういうのに揺れるの、やめたの。やめたいから戦線離脱したの。

なのにどうしてだろう。遥香の顔を見ることができない。

外から短いクラクションが聞こえた。遥香に肩を貸して立ち上がる。


「美鈴さんて、バカだよね」


それは心の底から同情しているような声だった。

私はまた聞こえないふりをした。

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