極上な彼の一途な独占欲
「どう、連れていってくれます?」

「そのうちな」


ブースの喧騒からは距離があるおかげで、建物内にいる私にも会話が届く。

これ以上近づいたら見つかってしまう。私は足を止め、壁に身体をくっつけた。

ちょっとスケジュールを調整するだけだから。すぐ退散するから。そう思っているのに声すらかけられない。

ふたりが特に親しげなわけでもない。秘密の話をしている雰囲気でもない。遥香が伊吹さんに好意を寄せているのは傍目にもわかるけれど、伊吹さんのほうはそつなく、気さくに応じているように見える。

その自然さがつらかった。

遥香が不満そうに口を尖らせる。


「なんだかんだお堅いよね、伊吹さんて」

「そんなことはない」

「じゃあ誰かに義理立て?」


口の端に煙草をぶら下げ、伊吹さんが苦笑した。

遥香が首をかしげて、彼の顔を覗き込む。


「美鈴さんのこと好きなんでしょ?」


言いながら、伊吹さんの手元をつついた。

催促に気がついた伊吹さんは、持っていた煙草のパッケージを振って一本出し、遥香に取らせる。続いて胸ポケットからライターを出そうとするのを、遥香が手で押さえて止めた。

にこっと愛らしく微笑んで、唇に挟んだ煙草を、伊吹さんのくわえている煙草に近づけ先端を触れ合わせる。赤い火が明るさを増した。

遥香が深々と最初の煙を吐き出してから、ようやく伊吹さんが口を開いた。


「うん」


投げ出した、長い脚の先を見つめて、ぽつりと。

遥香がほっそりした指で煙草を挟み、おかしそうに笑う。


「なんでそんな元気ないの、脈なしなの?」

「どうだろう」

「美鈴さんて、かわいいよね、元気で、正直で。私けっこう人嫌いで、近くにいてほしくない人はっきりしてるんだけど、美鈴さんとする仕事は好き」

「わかる」

「美鈴さんのどんなところが好き?」
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