極上な彼の一途な独占欲
私の手の中の書類を、彼がトンと指で突いたので、改めてそれを見てみる。扉には『セールス研修教本・抜粋』とある。

めくってみると、まさに教本で、店舗における接客の基本、代表的な質問、模範的な受け答えの例などが、きれいにまとめられていた。


「そんなデータなら、うちが一番持っているに決まってるだろ」

「そっか…そうでした」


どうして気づかなかったんだろう、そのくらいのこと。


「研修機関も社内にある。そこの講師を呼んで、彼女らの研修をさせるのがいい。ショーブースでのやりとりに限れば、一日みっちりやれば終わる」


私はぽかんと彼の顔を見上げた。伊吹さんは、私がちゃんと聞いているのか確認でもするように、ちょっと首をかしげ眉をひそめる。


「という提案をしようとかねてから思っていたんだが、あんたが『できます』『やります』しか言わないもんだから」

「あ…も、申し訳ありません、意地を張りました」


言ったそばからあわわと慌てる。『意地を張りました』じゃないでしょ。正直に言いすぎだ、というか、意地を張っていたつもりも特になかったのに。

いや、張っていたんだな、無意識のうちに…。

伊吹さんがあきれたような息をつく。


「あんた、彼女らをかばうのもほどほどにしたほうがいい。じゃないとますます彼女たちが、なにもできないバカに見える」


うっ…。


「は、反省します。あの、お話、とてもありがたいです。さっそく研修スケジュールに組み込みますので、講師の方のご予定を」

「追ってメールする。それと、そっちこそ誤解があるみたいだが」

「え?」


彼のオフィスがあるフロアはこの一階上だ。階段を使うのだろう、エレベーターとは逆の方向に足を向け、振り返った。


「俺は、あんたを嫌いじゃないよ」


その顔が、気さくな微笑みを浮かべていたので、私はあぜんとしてしまい。

思わずあげた「え!?」というバカみたいな大声と、彼の「むしろ」という続きが重なった。


「え、むしろって…え?」
< 12 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop