極上な彼の一途な独占欲
「でも嫌なんです。そういう気持ちに振り回されるの、こりごりなんです。それなりに恋愛してきました。ほとんどが一方的で、今思えば思い込みたいなもので、打ち明けもせず終わったようなものばかりで、ほんと子供じみてますけど」

「天羽」

「でも、これまでの人生、いつだって恋してないときのほうが、楽だった。間違いも少なくて、正しいほうを選べてた」


涙が出てきた。


「向いてないんです、私。よく考えずにのめり込んで、もっと大事なことを忘れちゃう。下手なんです、昔から」

「天羽、ちょっとストップ」


はっと我に返った。

伊吹さんがまぶしそうに目をすがめ、こちらに片手を差し出している。


「こっちに来てくれないか。逆光で顔が見えないんだ」


私たちの間には、二メートルほどの距離がある。歩数にしたら、ほんの三、四歩。だけど中と外。

待っていてくれる手だけを頼りに、ためらった末、足を踏み出した。


「…嫌なんです。ごめんなさい、伊吹さん」

「わかったから、少し落ち着け」

「なかったことになんてしたくないです。嬉しかったですもん。でもなかったことにします。そうしないと、私、ほかになにもできなくなってしまうので」


隣に座れるほど、私は気持ちに余裕がなくて、それを彼もわかってくれたみたいだった。正面に立たせて、軽く手を取ってくれる。

冷えた伊吹さんの指が、私の右手の甲をなでる。

そこにぽたりと涙が垂れた。

彼が顔を上げて、私を扱いかねたように、困った顔をする。


「泣くな」

「バカなんです、私。簡単だと思いませんでした? あれだけ伊吹さんに噛みついておいて、ちょっと優しくされたら、すぐ懐いて、好きってダダ漏れで」

「嬉しいと思っただけだ」
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