極上な彼の一途な独占欲
寒さと涙でぐずぐずになった鼻をすすった。

伊吹さんは半ば唖然とした様子で、それでも諭すみたいに話しかけてくれる。


「誰だって、こういうときはある程度バカになるだろ。俺だって例外じゃない」

「私はきっと、桁違いにバカなんです」

「まあ、強情なのは認める」


伊吹さんは不承不承という感じに同意し、煙草を足元に落として踏んだ。


「結城一博は、私の前の相手です」

「お前を酷く捨てた?」


涙を拭きながらうなずいた。


「私がお世話になった先輩が…──男性です──同業他社に行ったんです。結城はその会社に興味があるから先輩を紹介してほしいと言いました。私は彼を紹介しました」


誰かに話すのは初めてだ。暢子にすら、全部は話していない。


「半年後、結城はその会社に呼ばれて移ることになりました。私は彼の仕事が評価されたんだと思って一緒に喜びました。でも違ったんです。先輩の奥様が、そこの会社の人事権を持っていました」


話の行き着く先の見当がついたらしく、伊吹さんが表情を消して私を見た。


「結城と奥様の関係を、私は先輩から知らされました。すぐに本人に問いただしました。彼は『うん、やったよ』って言いました。『だって今の仕事、美鈴がやめてほしがってたでしょ』って」


何度思い出しても、同じように心が割れる。だから封印していたのに。


「私は当然、彼を責めました。彼は申し訳なさそうにして、でもなにも変える気はなくて、最後に言いました。『俺がこういう奴って、知ってたよね?』」


無意識に、手に力が入った。伊吹さんは、同じだけ力を強めて、握り返してくれた。


「彼とつきあい始めたとき、私には、ちょっと憧れていた人がいたんです。会社の人です。でも優しくしてくれた結城のほうに、すぐ気持ちが移って、かわいがってもらって愛されている気になって、その結果がこれ」
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