極上な彼の一途な独占欲
ヒロも私にそういう相手がいるのを知っていた。ヒロが知っているのを私も知っていた。今思えばその憧れもたいしたものじゃなかったし、ヒロが現れなかったところでどこにも発展しないようなものだったけれど。


──こういう奴って、知ってたよね?


知っていた。そして自分が、そういう男にすらふらふら惹かれるどうしようもないバカだってことも知っていた。

甘い言葉をかけるたび、わかりやすくヒロに傾いていく私は、ヒロにとってはおもちゃみたいなものだっただろう。ゲーム感覚だったに違いない。


「結城は面倒なことが嫌いです。『もういいや、バイバイ』。それで関係は終わりました。そこから一切連絡も取らず、このショーで会ったんです」

「それで様子がおかしかったのか」

「お恥ずかしいです、未熟で」

「…言ってくれればよかったのに」

「伊吹さんと、信頼関係があるみたいだったので」

「律儀だな」


伊吹さんがふっと笑う。

たくさんしゃべってたくさん泣いて、喉が渇いた。呼気は火照り、興奮で荒くなった呼吸のたびに、白く視界を染める。


「安心してくれていい。彼が男として規格外にクズであろうと、俺は彼の仕事だけを評価してつきあうつもりだ」

「ありがとうございます」

「本当に律儀だな」


小さく吹き出し、彼は握った私の手を見下ろした。


「それに、確かにバカで、下手なのもわかった」


立った位置から見下ろすと、伊吹さんの顔立ちが驚くほど整っているのがわかる。長いまつ毛がよく見える。


「俺はそれでもいいと言ったところで、ダメなんだろ」

「…ごめんなさい」

「うん、なんというか」


ふと言葉を切り、その目がどこか、地面の一点を見つめる。


「これこそ、理不尽だ」
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