極上な彼の一途な独占欲
私を責めるでもなく、笑い飛ばすでもなく。

かすかに口元を苦く微笑ませて、私のわがままを"受け入れた"ということだけを伝えてくる、静かな口調。

こちらを向かないのが、思わず漏れてしまった本音であることを示しているようで、胸が刺されたみたいに痛くなった。

ごめんなさい、伊吹さん。

ごめんなさい。

繋いだ手に、ぎゅうっと力がこもる。

伊吹さんが顔を上げた。


「俺には、待つ権利くらいはあるのか」


待つ…。


「なにを、ですか」

「さあ」


言っておきながら伊吹さんは首をひねる。

いつの間にか、同じくらいの温度になった手のひら。伊吹さんの指が、私の指の形を確かめるように、ゆっくりとなぞりながら離れていった。


「俺が聞きたい」


言いながら足元の吸殻を拾い、腰を上げる。そのまま私の横を通り過ぎ、目の前からいなくなった。


──俺が聞きたい。


そう言ったとき、彼は下を向いていたので表情は見えなかった。愛想が尽きた声にも、途方に暮れた声にも、かすかな自嘲にも聞こえた。

私のことなんか待たないで。

どんなに時間がたっても、私はきっと変わらない。寄せてくれる想いに条件反射で一瞬浮かれて、その後我に返るでしょう。

待たないで。

取り残された銀色の車。

その前に佇んで、唇を噛みしめた。

これでよかった。全部ぶちまけた。きっとそのうち、伊吹さんの心も変わる。


なのにどうして。

『おやすみ』も言ってもらえなかったことが、こんなにつらいのか。

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