極上な彼の一途な独占欲
11. 好きです
あと三日。あと三日。

バスタブに張ったお湯の中で、呪文みたいにそう唱えた。乳白色のお湯はハーブの香りで、ちくちくした気持ちを収めてくれる。

入浴剤、身体を洗うタオル、何種類ものティーバッグ。

泊まりの出張には必ず携帯する、私の三種の神器。これさえあればどこに泊まったって、そこを自分の住まいにすることができる。

金、土、日。あと三日でオートショーが終わる。

そうすれば伊吹さんとの仕事も終わる。

祈るような気持ちで繰り返した。

あと三日。


* * *


ブースの片隅には、メディアの記者がちょっとその場で記事を書いたりするのに向けた、細いテーブルと数脚のスツールが置いてある。

金曜日の朝、私がブースに出勤すると、伊吹さんはそこでPCを開いていた。

小柄な人であれば足が浮いてしまうであろうスツールに腰を預け、楽々と片足を床に置いている。

ふと彼が顔をわずかにそむけ、口元に拳を当てた。ほんの少し目が細められて、小さなあくびをしたんだとわかる。

珍しい。伊吹さんが人前で眠気を見せたことなんてない。疲れとかそういうのとも無縁で、寝過ごしたときでさえ、完璧にスイッチが入った状態で現れたのに。

彼がモニターに目を戻したとき、少し離れたところに立っている私に気づいた。軽く頬杖をついた姿勢で「おはよう」と声をかけてくる。

微笑んでくれたことにほっとした。


「おはようございます、お疲れですね」


予想に反して、静かな視線が投げ返されてきた。

えっ、な、なに?

私がうろたえたのを確認して、彼はまたモニターに目を戻してしまう。


「そうだな、疲れてる」

「…お仕事ですか」

「いや、人だな」

「………」

「寝かせてもらえなくて」
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