極上な彼の一途な独占欲
遥香を探していたら、ホールの隅で神部と話しているのを見つけた。
近づいた私に気づいたふたりが、露骨に警戒してみせる。
「あっ、美鈴さんだ!」
「なによ、次の仕事の話してるんだから、あんたはあっち行ってちょうだい!」
しっしっと手で追い払われ、私は悲しくなってしまった。
言い返すこともできず佇む私に、なにか様子が変だと気づいたらしく、神部が眉をひそめる。
「どうしたのよ、伊吹さんの寵愛を受けてるって遥香から聞いたから、この世の春みたいな状態かと思ってたのに」
「ほんとだ、美鈴さんが暗い」
「遥香、この後病院行ってきてって言いに来たの…」
「行くけど、暗いよ…」
ふたりが心配そうに、交互に私の顔を覗き込む。
泣けてきた。
私、どうすればよかったんだろう。
あれが正しかったなんて思っていない。でも私にとっては唯一の道だった。伊吹さんに申し訳ない選択だってこともわかっていた。私だってできるものなら彼のことだけ考えていたい。
みんな、恋ってどうやってしているの?
「あーもう、泣かない泣かない」
神部が私の頭を抱き寄せて、よしよしとなでてくれる。
その手が優しいものだから、ますます泣けた。
今日が終われば、あと二日。
間もなく閉場。
あと20分。あと10分。あと7分…。
『終礼始めまーす』
中山さんの号令がかかったときは思わず深いため息が出た。
ブースにいた全員が中央に集まり、整列する。
いつものように伊吹さんは、クライアントとして前方で、スタッフと向かい合う形で立っている。隣にいる同じ宣伝部の人と会話する様子は、いつもの彼。
中山さんが彼を呼んだ。
『この週末でラストなので、伊吹さんからひと言、ぜひ』