極上な彼の一途な独占欲
伊吹さんは軽くうなずき、バインダーを片手に中央に出て、マイクを受け取る。


『みなさんお疲れ様。いよいよあと二日、土曜と日曜を残すのみとなった。今週は先週以上に来場が多く、急なシフト変更やさまざまなトラブル対応もあったと思う。乗り切ってくれてありがとう』


彼らしい簡潔さでねぎらってから、手元のバインダーに目を落とし、『えーと』と言葉を選ぶ様子を見せた。

なんだろう、とみんな首をかしげて見守る。


『これ、言おうかどうか迷っていたんだが。これまで得た感触で、このチームはどうやら、危機感をあおるより褒めたほうが有効なのがわかったので』


場の空気が期待にふくらんだ。つまりお褒めの言葉か、とざわめきが広がる。

その様子に、伊吹さんはちらっと口の端を上げるとバインダーに目を戻した。


『来場者アンケートのランキングだ。現在うちのブースは3位』

「3位…」


ぽかんとした声で、誰かが「インポートブランド内の順位ですか?」と聞いた。伊吹さんが首を振る。


『総合順位だ』


その言葉の重みが浸透するのに、少しかかった。呆然と静まり返ったブース内が、わっと沸く。満足そうにそれを見て、伊吹さんが続ける。


『これまで総合5位までは、順序の入れ替わりこそあったものの国産メーカーが独占していた。今回初めてその牙城を崩すのは、我々かもしれない』


みんな舞い上がりながらも、しっかりその声を聞いている。


『泣いても笑ってもあと二日。せっかくなら笑おう。全員で』


落ち着いたトーンの呼びかけに、誰が号令をかけたわけでもなく、「はい!」と返事が重なった。




明日と明後日はこれまで以上の混み具合が予想される。衣装や控え室のメンテナンスなどを入れるタイミングは皆無だろうから、今夜のうちにやってしまうことにした。

デザイナーのネギちゃんにも来てもらって、全員の衣装をチェックし、負荷がかかりやすい箇所は補強し、はがれているところを縫い合わせたり接着したり。
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