極上な彼の一途な独占欲
「もう本当に、おふたりの前から消えます。美鈴も、バイバイ」

「でもまた会うでしょ、この業界なら」

「今の会社も、もうすぐ辞めるんだ、俺」


えっ、また?

ヒロがうなずき、私と伊吹さんを交互に見る。


「以前、御社のエンバーゴ破ったアホふたりがいたでしょう。俺、あいつらの後釜として雇われたんです。ほかにも他人の記事コピペしたりとかしてたんで、そういうの会社に告げ口して、首にさせて」


…またそういうやくざなことを。


「そしたら恨み買っちゃって。今度は向こうが俺のこと、あ、前の会社に入った経緯とか、美鈴から聞いてます? そういう情報を、まあ嘘じゃないんで仕方ないんですけど、会社に報告しやがってですね」

「首になったの?」

「される前に辞めることにした。居づらいとこ嫌いだし」


そんな状況なのに、からから笑っている。

破壊されたドアのそばまで行き、ぽっかり空いた穴を「あーあ」とこわごわ手でなでて、「そういうことなんで」と私たちに向き直った。


「来月からフリーになります。もし俺の記事を評価してくださってたんなら、伊吹さん、仕事くださいね」


図々しくもそう言い残し、にっと笑って出ていった。

一応ドアも閉められはしたものの、外からの風圧に押されてあっさり戻ってくる。私は改めて近くに行き、直せる直せないというレベルの損傷ではないのを見て取った。


「とりあえず、ガムテープで留めておきましょうか」


伊吹さんから返事はない。

周囲に誰もいないとはいえ、企業の控え室の中が丸見えというのもまずかろうと、パイプ椅子を持ってきてドアの前に置いた。するとなんとなく、外の気配と遮断された、室内空間が戻ってきた。


「明日の朝、みんなびっくりしちゃいますね」


というより、考えてみたらまだブースに残っているスタッフがいるはずだ。騒動の最中に戻ってくる人がいなくてよかった。そして彼らならきっと、強いガムテープを持っている。


「後で補修を…」


後ろから抱きしめられた。

パイプ椅子が動いてしまうので、重しになるものを探していた私は、どことも言えない場所をまっすぐ見つめて立ちすくんだ。
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