極上な彼の一途な独占欲
「伊吹、さん…」

「俺は案外、嫉妬深くてな」

「え」


あれっ、声は意外といつも通りだ。

"深くてな"の続きを待っても、なにも来ない。先に腕のほうがするりと私を解放したので、私は振り向いて彼に向き直った。

飛び込んできたときの、視線だけで人を射殺せそうな形相の名残はない。

私たちはしばらく無言で見つめ合い、やがて伊吹さんが小さく苦笑した。


「今朝、悪かった」


急に気持ちが緩み、涙が目の奥を駆け上がってくる。


「みっともなく天羽に当たった。悪かった」

「いえ、私のほうこそ、無神経で…」

「それは本当にそうだ」


うっ…。

ヒロが語った過去の私の所業のこともあり、ぐさっと来る。


「でも好きだ」


あいにくその瞬間、私はうつむいていて、彼の表情を見逃した。

顔を上げた先には、照れくさそうな微笑み。


「聞き分けのいいふりをしようともしたんだが、無理だった。お前がどう思ってるか知らないが、俺は普通の男だ。好きなら声を聞きたくなるし」


首をかしげ、視線をちょっと落とす。


「声を聞いたら会いたくなるし」


その視線が戻ってきて、彼は困ったように笑った。


「…目の前にいたら、さわりたくなる」


指がふと、私の頬のあたりに伸ばされ、やっぱり許されないことみたいに一度ためらい、それからゆっくりと、私の左耳の下をなでて、髪を一筋すくって戻ってきた。
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