極上な彼の一途な独占欲
ウェーブのかかった私の髪を、なにかすごく珍しいものみたいに、伊吹さんの指がじっくりと梳きながら身体の前に垂らす。


「…じゃあ、さわってください」


衝動的に本音が出た。

伊吹さんは軽い驚きを見せた後、苦笑する。


「刺激の強いこと言うなよ」

「私…」

「恋愛はしたくないんだろ。俺はそれでもいいとは言えない」


ヒロが背中を押してくれたのはわかっていた。私の過去のトラウマを消して、伊吹さんのところに行きなよ、と言ってくれたのはわかった。

私も歩き出せるんじゃないかって気になっていた。だけど伊吹さんの声を聞いているうち、また自信がなくなった。

だってもう、わかるもの。私、気を抜いたらこの人に、完璧に溺れる。

ぎゅっと口をつぐんだ私を、伊吹さんが優しく笑う。


「そんな関係はむなしいし、さっきも言ったように俺はけっこう嫉妬深い」


彼の指は、私の髪をまだもてあそんでいる。


「自分のさわったものは、ほかの人間には絶対さわらせたくないと思うし、ドア一枚隔てた向こうで、親しげに昔の男の名前を連呼されたら」


指の動きが止まった。

伊吹さんが目を伏せて、きまり悪そうに口元を微笑ませる。


「我を忘れるくらいには我慢が効かない」


好きです、伊吹さん。

好きです。

でもどうしたらいいのかわからないの。

私は今も下手なままで、過去の傷が多少埋まったところでそれは変わらない。


「だから、俺が助けてやれないかな」
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