極上な彼の一途な独占欲
元セールスマンなんだろう、身なりの整った、いかにも一目で信頼を得そうな先生が、にこりと笑った。

暢子がみんなを呼び戻し、テストの結果を伝える。部屋は安堵と歓喜に包まれ、弾むようなムードの中でロールプレイングが始まった。


「先生は、さすがですね」

「素人をセールスマンにするのが彼の仕事だからな」

「ディーラーの新人さんも、本社に研修に来たりするんですか?」


脚を組んで見守りながら、伊吹さんがそっけなくうなずく。その目が一人一人を、念入りにチェックしているのがわかる。


「彼女らも、たいしたもんだ。ここまで仕上げてくるとは正直思わなかった」

「カタログスタンドを置くより、いいでしょう?」


つい気が楽になって、軽口を叩いてしまった。

うわあ、また悪魔につけ入る隙を与えたよ…!と悔やむも遅く、身体を硬くして悪口雑言、もしくは嫌味に備える。

けれどそんなものは来ず、穏やかな声が聞こえた。


「そうだな」


こわごわ隣をうかがえば、口元には優しい笑み。目が私を捉えると、その笑みが楽しげなものに変わる。

私は顔をそむけ、赤くなっていることが少しでも隠れるよう、耳にかけていた髪をさりげなく、いや、大慌てで下ろした。

笑われているのが、気配でわかる。

なにこれ。


二週間後にはショーが始まる。18日間、朝から夕方まで大勢の来場者が詰めかける、巨大なショーが。

その期間中は、すべてのスタッフが会場近くの同じホテルに泊まる。ほとんど共同生活状態で、長い会期を過ごすのだ。

…なにかが、起こるんじゃないだろうか。

なにかって、なに?

そんな、不安まじりの期待が浮かんでくるのを感じては消し、感じては消し。私は熱い頬を押さえて、横の伊吹さんを見ないよう、まっすぐ前を向いていた。

< 14 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop