極上な彼の一途な独占欲
「もとはと言えば中から鍵がかかってしまった不具合が問題なわけですし。でも次回からはスタッフを呼んでくださいね、ドアを壊す前に」

「力が余ったんだ」

「格闘技でもやってたんですか?」


ははは、と笑い合う姿を見て、世の中堂々としたもん勝ちだなと思った。


「天羽!」


そこに突然呼びかけられた。覚えがあるようなないような声だったので、慌てて背筋を正した。


「はい!」

「なにいきなりかしこまってるわけ」


声の主はブースの外からやってきた。

長身の、スーツ姿の男の人だ。光沢のある深いブルーの生地と、うなじを隠す長さの明るいウェーブヘアが、メーカー関係者ではないなと思わせる。顔立ちは華やかで、見惚れるような美形。

いや、待って。私、あの顔知ってるんじゃない?


「か…神部?」

「そうよ」

「どうしたの、その恰好!」

「あたしだってたまには、身体の方に合わせた服着たくなるわよ」

「あ、そう…」


呆然とした。正直、見とれた。ハイレベルな容姿だってことは承知していたけれど、まさかここまでとは思っていなかった。

レディースを身に着けながらも、たまにメイクがあっさりしていたりヘアスタイルがシンプルだったり、ニュートラルな装いだなと感じる日はあった。だけど完全に男性の姿をしている神部を見たのは、初めてだったのだ。


「髪、切っちゃったの?」

「うん、重くなってきたから。この長さならどっちもいけるでしょ?」

「いけるいける。むしろ色っぽくなるかも」

「素直ね! あらっ、ここのデモカー、伊吹さんが動かしてるの?」


私にヘッドロックをかけた状態で、神部が顔を向けた先では、伊吹さんが展示車両のひとつに乗り込んだところだった。
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