極上な彼の一途な独占欲
撤収中の機材がひしめき合い、車両同士も複雑に配置されているブースの中を、器用にバックで搬出口まで移動させていく。

誘導がひとりついているとはいえ、場所によってはたたんだミラーがかすりそうなほどのぎりぎりを通していった。


「そうみたいだね。私からしたら神業だなあ」

「プロでもない限り、あれは神業クラスに見えるわよ。だけどああして、車両に責任を持てる人が自ら動いてくれるのは、とてもいいわね。うちのところなんて全部カープレップに丸投げ」

「伊吹さんて、たぶん車好きなんだと思う」

「車好きで運転のうまい男はセクシーよ」

「またそれ」


ぐっとヘッドロックが締まり、わたしはぐえっと呻いた。

この業界、車好きばかりじゃない。というより好きな人のほうが少ないかもしれない。自社製品として愛はあるけれど、くらいの人が大半じゃないだろうか。

伊吹さんの愛は純粋だ。

それゆえに鮮烈で、だからきっと最初の頃、私と彼はぶつかったのだ。

十台近くあった展示車をすべて出し終えて、伊吹さんが戻ってくる。胸元のマイクに何事か話しかけていた彼が、こちらに気づいた。


「神部さん、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。御社のブースに、全社が刺激を受けたと思います」


すごいなあ伊吹さん、ぱっと見ただけでこれが神部だと見抜いた。

ヘアスタイルとかネイルとか、見かけのささいな変化に無頓着な分、男の人はこういうときも惑わないのかもしれない。

神部と仕事上の会話を交わしながら、ふと伊吹さんが私を見た。とたんに怪訝そうに眉をひそめる。


「やることないならどこか行ってろ、邪魔だ」

「なっ…」

「この後重機が入る。ぼけっとしてたら轢かれるぜ」


からかっているだけと示すために笑いかける…なんてことはなく、伊吹さんは冷たく言い捨てただけで、またスタッフのところへ戻っていってしまった。

神部がお腹を抱えて笑っている。


「なによあんた、あの扱われ方!」

「うるさいなあ」

「気の毒すぎる!」
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